最近の水産を巡る話題  ―日韓漁業協議― | 衆議院議員 森 英介

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最近の水産を巡る話題 ―日韓漁業協議―

衆議院議員 森 英介

 私は、一昨年十月の総選挙の後、自由民主党の水産部長という役職に就きました。
外房は上総興津から出て、大正十三年に初めて衆議院に議席を得た私の祖父・の総選挙に際してのスローガンは、 「水産立国のために」というものでした。それから七十有余年を経て、外房のみならず我が国の置かれた状況、 また、それを取り巻く環境は、大きく変りました。しかし、世界に冠たる魚食民族たる日本人にとっての水産業の重要性は、 何ら変るところがありません。しかも、我が国の水産業は、今まさに、歴史的転換期にあります。このような時期に当って、 この役を与えられたことに、私としては、感慨もひとしおであり、その職責の重大さに身の引き締まる思いがしました。
そして、昨年十一月の内閣改造に伴う党の人事異動により退任するまで、およそ一年間の在任期間でしたが、 その間、我が国の水産業のために、自分なりに精一杯の努力を払ったつもりです。折角の機会をいただきましたので、 水産部長としての私の活動の一端を報告させていただきたいと存じます。何と言っても、最も強く印象に残っていることは、 日中、日韓の漁業協議に与党の立場で深く関わったことです。一昨年、我が国は、国連海洋法条約を推進しました。 私が、折りしも、党の外交部会長であったときのことです。同条約に批准したことによって、生物資源、 鉱物資源に関して我が国の主権的権利の及ぶ水域が、これまでの十二海里から二百海里に拡大しました。
このように良いことずくめのこの条約なのに、何故に、我が国政府がこれまで批准することを逡巡してきたかというと、 一つの理由は、いざ、同条約に則って水域の線引きをしようとすれば、日中、日韓の間でそれぞれの主張に食い違いのある尖閣諸島、 竹島の取り扱いをどうするかという難題にいやでも直面せざるをえなかったからだろうと思います。
ところで、国連海洋法条約の批准を一番待ち望んでいたのは、我が国の漁業者です。というのは、永年、日本の沿岸には、 中国、韓国の違法操業の漁船がし、水産資源を根こそぎ収奪して行ってしまう状況が続いていました。ところが、 現行の日中・日韓の漁業協定の下では、目と鼻の先で違法行為が繰返されていても、十二海里の領域の外であれば、 我が国政府は、これを取締まることができません。しかも、我が国では、昨年の一月一日からTAC(漁獲可能量)制度が導入されて、 我が国の漁業者は、獲って良い漁獲量に制限が課せられることになりました。それやこれやで、同条約の批准を機に、 一日も早く、同条約に則った新しい海洋秩序を構築してほしいというのが、漁業者の悲願であったのです。
 こうした漁業関係者の切なる要望に応えて、国連海洋法条約を批准するに当って、自民・社民・さきがけの与党三党は、 条約発行後一年以内を目途に日中・日韓の新漁業協定の締結を目指し、もし、その時点で合意に至っていなかったら、 現行漁業協定の破棄も辞さないという申し合わせをしました。交渉当事者である外務省や水産省を督励し、交渉を見守ってきました。 勿論、私どもも手をこまねいていた訳ではありません。あらゆる機会を捉えて、両国の関係者に新漁業協定の締結に応じるように、 強く働きかけを行って行きました。それにも拘らず、残念ながら、予想された通り、交渉は、難航しました。しかし、中国との間では、 条約発行後一年という与党三党が申し合わせをした交渉期限(七月二十日)は過ぎたものの、幸いなことに、 昨年九月初めの橋本総理の訪中直前に、新漁業協定の実質合意に漕ぎつけることができました。
 一方、韓国との間では、その時点でも、依然として、交渉は、平行線を辿っており、実質的な進展が見られませんでした。そこで、自由民主党としては、 この際、我が国の方から、韓国に対し、現行の日韓漁業協定の終了通告をすべきであると判断し、社民・さきがけ両党の同意も得て、 昨年九月十七日、その旨、政府に申し入れを行いました。といっても、もとより、一衣帯水の隣国である韓国との友好関係を損うことを望むものではありません。 現行の協定は、一方が終了を通行しても、一年間は効力を有するという取決めになっています。ですから、取敢えず現行協定を終了させて、 一年間という最終期限を設けた上で、お互い、新しい漁業協定の合意に向けて、真摯な努力をしようではないか、というのが私たちの考えでした。 ところが、与党三党が申し入れを行った後も、政府は、何とか、我が国からの一方的な終了通行を避けようとして、猶も交渉を継続しました。 その結果、確かに、日韓の間で、多少の歩み寄りが見られましたけれども、結局のところ、どうしても、双方の主張の溝を埋めることはできませんでした。 水域の線引きの問題もあることながら、日韓両国の資源管理に対する姿勢の違いが最も大きな対立点でした。
すなわち、我が国は、排他的権利を留保する水域についても、関係国で資源管理が出来るような協定内容にすべきと考えており、 かたや、韓国は、これまでの漁業実績を極力損なわないために、何の制約も無しに自由に操業できる水域を出来るだけ広くとろうと企画しているかのように見えました。 このようなことから、昨年の十二月末になって、さしもの我が国政府も、これ以上ズルズルと交渉を引き延ばす訳に行かないと苦渋の決断をするに至り、 今年の一月二十三日、遂に、韓国政府に対して、正式に現行漁業協定の終了通告を行いました。当然のことながら、韓国側から、 相応の反撥がありました。しかし、将来に亙って水産資源の恩恵を享受しようというのなら、獲りたい放題、魚を獲っていたら、 いずれ資源が枯渇してしまうことは、火を見るより明らかです。従って、どの国の漁業者に対しても、節度ある操業が求められているのであって、 これからは、国連海洋法条約の精神に則った協調的な資源管理体制を構築することが是非とも必要です。
日韓両国の間に横たわる当面する最大の外交課題は、このような経緯で、現在、交渉が中断している漁業協定問題となっています。 しかし、上述した点についての認識を同じくすることができれば、必ずや、合意点が見出せるものと、私は信じています。 我が国の水産業の歴史的転換期に、このような立場で、党の重要な水産ならびに外交政策に関する意思決定に参画することができたことは、 大変に勉強になりましたし、また、光栄なことでした。今後とも、自民党水産部会の一員として、我が国の水産業の振興のために、 微力を尽くして行きたいと思っております。


(房総及び房総人)より